何かの雑誌だったろうか。
「米澤穂信」という名前を覚えていた。
其れで、手に取った一冊だった。
内容は小市民という猫の皮を被ろうとしている男子と女子の話、
とでも言っておこう。
そんな小説について。
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取敢えず、まず目に付いたのは「表紙のイラスト」だった。
どこで見たかは覚えていないけれど、淡い色調に、特徴的な目。
好きなイラストだった。
大抵、良い作品というものには、其れに付随するものも優れている事が多い。
例えば、名作映画には名曲が必ずと言っていいほど存在する。
よく「見た目が良ければ……」「内容が良ければ……」という話を耳にするが、
其れは唯手を抜いているだけだろうと思われる。
本当に良いものというのは「見た目」も「内容」もそれなりに良いものだ。
本作品は連作短編形式に成っている。
まあ、短い話が幾つか繋がって大きな話に成っている、という事である。
確かに推理もので、謎解きの面白さも在る。
舞台が高校だから、青春時代を幾らか思い返す事も出来るかも知れない。
お菓子の話が出てくるので、好きな人は垂涎の(いや、そこまででは無いが)
物語かも知れない。
でも、一番の魅力は、小鳩君と小山内さんの微妙な関係と、それぞれの隠された
本性だろう(本作では完全に露呈していない)。
現代社会で生きる上で、「目立たない」というのは、一つのキィワードかも
知れない。
誰しもが、何かしらの「猫」を被って生きている。
でも、猫はやはり猫であって、気まぐれに、脱ぎ捨てられてしまうものなの
だろう。
それでも、猫を被って、生きていかなければならない。
ちょっと悲しい現代人。
お菓子に例えるなら、「べったりコテコテの、見るだけで胸焼けしそうなクリーム
べた塗り、バター使いたい放題のケイキ」ではなく、
「さくっと香ばしくて、ちょっぴり酸っぱい」
正に「春期限定いちごタルト」のような趣(おもむき)の作品だろう。
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