アメリカを代表する作家の一人で、作品は幾つか映画化されたものも
在りますね。
此の「ガープの世界」は、そんなアーヴィングの代表作です。それも
「T・S・ガープ」という一人の作家の人生を綴った、自伝的とも言える
長編小説です。
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「T・S・ガープ」というのが本名(つまり、ティリー・サラ・ガープとかの略、
では無い)の、やがてそこそこに有名な作家に成っていく一人の男性の、
その奇妙な誕生の経緯から、成長から、人生の最期までを、実に悲喜交々
(ひきこもごも)に描いた作品なのだが、それ故に必然的に長く成り、
必ずしも読み易いとは言えない。
その上「セクス」の描写も在るし、小説内小説には暴力的なシーンも登場する。
けれども、全編通して、暗く重い雰囲気が漂いそうなテーマだったり、人物
だったりを扱っていながらも、不思議と暗くない。
例えば、浮気のようなものでも、どこかコミカルに見えてしまう。
自伝的と言えるのは、主人公が小説家であることも確かにそうだが、
それ以上に「小説を書く」という行為が、其の作者の其の時の状況と全く
切り離されているものでは無い、という部分だろう。
もちろん、これは「小説」という非日常的な行為だけで無く、只「夫婦の
関係」だったり、「友達の関係」だったり、そんな日常的なものにさえ、
言える事だろう。
小説の中では突然「事故」や「人の死」が訪れ、
また、いわれのない事で「誹謗中傷」され、
思わないところから「有名」がやってくる。
けれど、人生とは「そういうもの」かも知れないのだ。
「どう転ぶか分からない」
そういう人生を、アーヴィングは実に巧みなプロット(設計図)で
仕上げている。
人生の最期まで読んで、ある男の人生が
「まあ、悪くなかったかな」
と彼が思えれば、それで充分なのかも知れない。
もちろん其れが、誰かにとっては「あまり良い結末」とは言えなかった
としても。
何故なら、其の世界は「彼の世界」なのだから。
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